仁鍼灸治療院(江戸川区・葛西)は、はりきゅう・マッサージ・スポーツマッサージ・リラクゼーションの鍼灸治療院です。
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J's diary(院長日記)
院長日記。不定期に
更新しています。
スタッフからコラム(不定期)
Field of dreams〜院長日記番外編〜
石岡院長の高校時代の野球の物語です。
番外編として新登場!!
EP-4 (2006/7/25)
 野球漬けの毎日に身体も心も(?)少しずつ慣れてくる頃になると、高校球児にとっては最大のイベント、夏の甲子園に続く地区予選に向け周囲も慌ただしくなって来ました。
 6月くらいからはほぼ毎週末、練習試合が組まれてきます。とはいってもそれは、夏の大会に臨む最終メンバー、ベンチ入り18人のテストを兼ねた厳しい戦いです。入学した年の夏の地区予選(7月)に、上級生を押しのけ1年生がベンチ入りメンバーに入るのは至難の業です。結局、新1年生でそのメンバーに入ったのは後に我々の代で主将となるI.H君と全中準優勝のエースだったF.K君の2人で、私はそこに入れませんでした。

 夏の大会間近になると、部員達の間でも何となくベンチ入りメンバーで「あの人は大丈夫、あの人は厳しい…」みたいな雰囲気(?)話題(?)とでも云うのでしょうか…毎年ピリピリとしたムードが漂い始めます。(監督は決してそうは言いませんが…)
 明らかにレギュラークラスの人達とは別に、大変なのはメンバー入り当落線上ギリギリの3年生で、最後の夏のベンチに入れなければ即引退ということになります。監督はゲームの中で一人ひとりテストをしていくので、この時期の練習試合はみな必死です。

 当時、私にとても良くしてくれた3年のHさんがいました。通常、新1年生の教育係は2年生がするので3年生とはあまり接点がありません。(1年生から見ると3年生は雲上人みたいな存在です)
 少し話が逸れますが、野球部は皆、当然坊主頭です。“おしゃれ”という言葉には縁遠い世界ですが、そのあたりはいわゆる“お年頃“…制服をいじったり、眉を揃えたり…現役中は学生服とユニフォームそしてジャージくらいしか着ないものですから、それは涙ぐましい努力をする訳です。野球部だけは学帽を被っていたのですが、(他の生徒は被りません)その学帽も色々といじるんですね。学帽のフチにセメダインを入れてアイロン掛けをし、ピンと尖らす”円帽“(円盤みたいだから?)、フチを中に織り込んで縫い付ける”詰め帽“など…Hさんはその詰め帽がビシッと決まっていました。(1年の私はもちろんノーマルです)

 Hさんは私の自宅がある駅の一つ手前に住んでいたため、朝、通学の電車でよく一緒になりました。1年生は行き帰りの電車で座ってはいけない事になっていたのですが、(この他にも野球部には色々な掟がありました)Hさんは私を見付けると手招きをしていつも隣に座らせてくれました。そして「練習大変か?」とか「お前は頑張ればメンバーに入れるぞ」とか…毎日のキツさも吹っ飛ぶようなやさしい言葉を掛けてくれました。
 そのHさんこそ最後の夏を控え、いわゆるメンバー入りの当落線上にいる選手でした。とても口に出して言えませんでしたが、私は何としてもHさんにメンバー入りして欲しいと思っていました。

 そんな折の練習試合、私はたまたまバット係としてベンチの横にいたのですが、試合の終盤、チャンスの場面で監督が代打にHさんを指名しました。私は気合い十分のHさんにいつも使っているバットとヘルメットを手渡しました。
 「頑張ってください」と口まで出かかっていましたが、何も言えませんでした。ただ…打席に向かうHさんの背中に心の中で祈るように叫んでいました。
「頼む、打ってくれ!」と…。

 結果は最悪でした。三球三振、しかもすべて見逃しです。肩を落としてベンチに帰ったHさんに監督は厳しくこう言いました。「おい!H、解っただろ、それが今のお前の実力だ。」
 そんな言い方をしなくても…と正直、私は思いました。今も監督の真意というか、意図はよく解りません。しかし、何としてもメンバーに…と思っている他の3年生が大勢いることも事実です。極端に言えば、毎年“誰かを選んで誰かを落とす”監督にも辛い決断の中で色々と考えるところがあるのかなと思います。
 バットを受け取った私はとてもHさんを見ていられませんでした。Hさんはヘルメットを深く被りベンチ裏で泣いているように見えましたが、それは結果の出なかった悔しさよりも、振ることすらしなかった自分に悔やんでいるようでした。
 Hさんは結局、最後の夏のメンバーに入ることができませんでした。

 打者には色々なタイプがあります。ファーストストライクからどんどん振っていくタイプや、じっくりと狙い球を見極めて配球を読むタイプなど…ある程度、どの打者も追い込まれる(2ストライク)まではストライクゾーンや球種を小さく絞り、追い込まれたらやや幅を広げ対応するものですが、厳しいカウントでは厳しい球にも手を出していかなければならなくなります。
 シアトル・マリナーズのイチロー選手を見ていると、両方を兼ね備えたタイプに見えます。試合状況の判断や相手の気配、配球の読みが良いので初球から待っていたかの様に打ちにいくこともありますし、追い込まれても彼くらいバットコントロールが良いとヒットにする確率も高いので、あのハイアベレージが残せるのでしょうね。

 私は比較的早いカウントで打つタイプのバッターだったので、初球打ちも多かったように思います。当然、球も見極めますが良い投手になればなるほど一打席の中でそんなに甘いボールは多く来ません。
 打者心理として初球というのは意外に打ちにくいものです。打てば積極的と云われますが、凡退すれば“もったいない“とか“淡白だ“と映るからかも知れません。
 ただ、私はどんなにタイミングの合っていない相手投手にもまずは出来る限り早めに振っていくことで(勿論カウントにもよります)アジャストの感覚を計れる気がしていました。そして何よりも初球が一番ストライクの確率が高いのですから。
 そういう意味では私はあまり器用なバッターではなかったのでしょうね…(笑)

 もちろん野球にはセオリーとして打ちにいってはいけない場面やカウントもあります。
 でも私はHさんの打席を見た時、“バッターはバットを振らないと何も起こらない”“振れば何かが起きるかも知れない”という当たり前のことを強く感じました。しかし頭で理解していても、身体は動かない…そういった感覚は野球に限らずスポーツでは往々にしてあるものです。あの時のHさんもきっとそうだったのだと思います。

 どの監督さんもそうだと思いますが、うちの監督も見逃しの三振や勝負球を簡単に見逃すと烈火の如く怒りました。私も試合中、幾度となく監督に怒鳴られました。今もあの独特のダミ声が耳に焼き付いています。
 「バカヤロー!その球だろ!」


To be continued…
 2006.7.25 S.Ishioka wrote
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